【東京市長】であった後藤新平の96年前の【市会選挙】への想いから受け止めること
【公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所(理事長:小早川光郎さん】の今年度第1回の評議員会議に出席しました。
当日は10名の評議員が全員出席し、元内閣官房副長官・元総務事務次官の瀧野欣彌さんの議長のもと、2024年度の事業及び決算について可決されました。
本財団(旧名称【東京市政調査会】)は、1922(大正11)年2月に、当時の東京市長後藤新平によって創立されました。
後藤新平は、東京市長に就任後、東京市政のための中正独立の調査機関の設置を構想し、ニューヨーク市政調査会をモデルとした市政調査会の設立を提案しました。
後藤の提案に賛同したのが、当時の日本における財界の指導者で、安田銀行(現みずほ銀行)の創立者である安田善次郎でした。
安田は後藤に資金の提供を申し出られた後に急逝され、ご遺族によってその遺志が引き継がれ、巨額の寄付がなされました。
安田家の寄付条件に基づいて、本財団は市政会館・日比谷公会堂及び本所公会堂を建設しました。
完成直後に日比谷公会堂は東京市へ管理を移し、本所公会堂は東京市へ寄付されました。
私は三鷹市長在任中に都内の自治体首長として評議員をつとめていましたが、2012年に公益財団法人に移行する際の改組で退任しました。
本財団は、その時に名称を、創立者の2人を顕彰して【後藤・安田記念東京都市研究所】に変更しています。
そして、私は、三鷹市長退任後の2020年から評議員に再任されました。
2023年、市政会館及び日比谷公会堂が「東京都指定有形文化財(建造物)」に指定されています。
現在は、その2つの歴史的に重要な建造物の耐震化が課題となっています。
さて、評議員会議の終了後に、付属の都市問題・地方自治に関する専門図書館で図書館法の私立図書館でもある【市政専門図書館】が所蔵している後藤新平のラジオ放送の原稿が紹介されました。
それは、「昭和四年三⽉⼗四⽇午後七時廿五分東京放送局放送「市会議員選挙ニ付キ東京市⺠ニ告ク」という3件の文書の中の【読み上げ用巻紙和紙筆書き】です。
本財団のホームページの【デジタルアーカイブス:市政専門図書館所蔵「後藤新平関係文書」】の「23.在野時代」にPDFで紹介されています。
その日、当時の東京市議会議員選挙2日前に後藤新平によって放送されたラジオ放送の生の資料を拝見して、文面の次の部分に注目しました。
●私は此の機会に於いて真心を以て市民諸君に訴え、市民諸君とともに考えたいのであります。
●元来、市政の浄化、即ち市政を清く正しきものにするには、何と申しても、市会という市の原動力を清く正しきものにすることが第一に肝要であります。
●(市会を組織する議員の選挙を清潔にするに至り)市会という原動力がしっかりしておれば、市の行政は全体が旨く行くわけであります。
●この重大な意義を持っておる新市会を、上等なものに作り上げるか、下等なものに作り挙げるかを決すべき日が二日の後に迫っております。
●之をどちらにするかは、実に我々市民の持つ一票の投票で決まるのであります。
医師である後藤新平は、南満洲鉄道初代総裁・逓信大臣・内務大臣・外務大臣を務めたのち、東京市第7代市長に1920年12月17日に就任し、1923年4月20日までつとめています。
東京市の市制は、明治時代においては一般市とは一部異なる変則的な市制だったと言われています。東京府知事および府書記官が市長を兼務していました。
そして、1898年(明治31年)10月1日にそれまでの市制特例を撤廃する法律が成立して、東京市に一般市制が施行され、府知事の市長兼務は廃止されました。
東京市長は市会が3名推薦して、政府がその中から1人を市長に任命する制度となりました。
さらに、1926年(大正15年・昭和元年)からは市議の互選により市長が選出されるようになったということです。
また、詳細は調べられてはいませんが、当時の東京市政には、後藤新平が気になる市政の課題があったので、東京市議会議員選挙の重要性を認識して、1929(昭和4)年にラジオ放送を行ったのではないかと推察します。
ちなみに、東京放送局とは現在のNHKラジオです。
1929年は、1925年に【普通選挙法】が制定されていましたから、それまでの納税額による制限選挙から、納税要件が撤廃され、日本国籍を持ち、かつ内地に居住する満25歳以上の全ての成年男子に選挙権が与えられることが規定されていました。
けれども、成年女子は依然として選挙権が認められていなかった状況だと思います。
現在のように、18歳以上のだれもが投票できる制度ではなかった状況でのメッセージであったことは留意したいと思います。
この評議員会議が開催されたのは6月22日の投票日を控えて、東京都議会議員の選挙期間でした。
後藤新平のメッセージが発出された状況とは、時代も、社会経済的環境も異なります。
ただ、【市政をよくするために市会が重要である】すなわち【都政をよくするためには都議会が重要である】と、二元代表制の意義を唱えた後藤新平の真意は、有意義であると思います。
民主主義と二元代表制を尊重して、1人ひとりに与えられている1票を大切にしたいと思います。



