【三原じゅん子・こども政策担当大臣と大西一史・熊本市長、坂本哲志衆議院議員の面談に同席】
大西一史・熊本市長は国への「令和8(2026)年度の重点施策に関する要望活動」の一環として、こども家庭庁を熊本県選出の坂本哲志衆議院議員(自由民主党国会対策委員長)と来訪され、三原じゅん子大臣と面談されました。
この日は、特に【内密出産についての法整備等】について要請されました。私はこども家庭庁参与として同席しました。
「内密出産」とは、出産を受け入れる医療機関の一部の人だけに妊婦の身元情報を伝えて出産する方法です。
要望書によれば、熊本市の【医療法人聖粒顔委慈恵病院】が設置した「こうのとりのゆりかご」という諸事情のために育てることのできない赤ちゃん(新生児や子ども)を親が匿名で託すための施設には、2007年5月に設置以来2023年度末までに全国から179人のこどもが預けられています。
そして、2019年11月、この慈恵病院は、いわゆる【内密出産】を実施することを表明して、2021年12月からこれまでに40例の内密出産とされる事例が確認されているとのことです。
国では、2022年9月に法務省と厚生労働省が連携して、「妊婦がその身元情報を医療機関の一部の者のみに明らかにして出産した時の取扱いについて」(いわゆる「内密出産ガイドライン」)を策定し、全国の自治体に通知を発出しています。
その「9つのプロセス」の内容は以下の通りです。
1.内密出産を希望する妊婦から、受け入れ先の医療機関に相談
2.子どもの出自を知る権利の重要性や出産前後に得られる支援などについて、受け入れ医療機関から妊婦に対して説明し、身元情報を明らかにした上での出産について説得
3.妊婦が身元情報を明らかにすることに同意しない場合、受け入れ医療機関における仮名等での診療録等を作成
4.出産
5.医療機関から母親に対し、身元情報を明らかにした上での出生届提出を催告
6.母が出生届を提出する意向がないことが確認された場合、受け入れ医療機関から管轄の児童相談所に要保護児童の通告
7.児童相談所から管轄の市区町村に対し、戸籍作成に必要な情報を提供
8.市区町村長による戸籍作成
9.医療機関、市区町村、児童相談所間で連携し、要保護児童に対応
このガイドラインでは、母子に適切な支援を提供するためにも身元を明かして出産することが原則という立場を示しており、決して「内密出産」を推奨するものではないことが明記されています。
そして、2023年5月に熊本市は慈恵病院と連携して「緊急化の妊婦から生まれた子どもの出自を知る権利の保障当為関する検討会」を設置して、その議論を2025年3月にとりまとめました。
その報告書を踏まえて、大西市長は、次のような論点を三原大臣に示されました・
①こどもの出自を知る権利の保障の在り方
②母親に対する支援:特に母親が未成年の場合の支援の在り方や出産費用等の課題への対応
③こどもの処遇:社会的養育や特別養子縁組を進める際の適切性、出自や母の情報を開示する際の説明方法
そして、これらの課題は1自治体、1医療機関で解決できるものではないので、国による「いわゆる内密出産ガイドライン」の見直し・充実や、子どもの出自に関する情報の管理や開示のあり方などを定めた法整備の検討を要請されました。
さらに、注目すべき実践も報告されました。
それは、2023年4月に設置された【熊本市妊娠内密相談センター】の取組みです。
【妊娠SOS熊本】ということで、原則匿名で、妊娠について相談できるセンターで、専門の相談員が寄り添い、一緒に考えてくれる24時間・年中無休のセンターです。
2023年度は666件、2024年度は745件の相談が全国から寄せられたとのことで、予期せぬ妊娠などで差し迫った状況に置かれた人は多いと指摘しています。
その中には匿名ではなく、名前を開示して適切な支援機関と連携が進んだ事例も26%ほどあるとのことです。
また、ドイツでは、全国に行政のみならずNGO・NPOなど約1,600か所の妊娠相談センターが設置されているそうです。
大西市長は、全国市長会副会長、九州市長会会長、指定都市市長会副会長をおつとめのことから、他の自治体に相談センターの設置を呼び掛けたいと言われるとともに、ぜひとも国の支援をと要請されました。
市長に同行された坂本衆議院議員は、自由民主党「孤独・孤立対策特命委員会」の元委員長(現委員長は野田聖子衆議院議員・元こども政策担当大臣)であるご経験から、「内密出産」は妊婦の「孤独・孤立」に関わる重要な課題と位置付けて検討していくことが大切であるとの認識を披歴されました。
三原大臣は、内密出産をめぐるこれらの要請について、こども家庭庁でもドイツはじめ外国の事例についての調査も進めており、予期せぬ妊娠に直面している妊婦や、内密出産によるこどもの権利の保障の在り方について、丁寧に検討していきたいと述べられました。
そして、妊婦の孤独・孤立を防ぎ、しっかりと支援していく必要性と、その具体的な支援策について検討する決意を述べられました。
日本では、残念ですが、母親が出産後にこどもを十分に養育せずに、その命を守れない事例があります。その背景のひとつとして予期せぬ妊娠・出産を誰にも相談できない妊産婦の孤立した環境が挙げられています。
三原大臣と大西市長との対話を通して、周囲から孤立した孤独な妊産婦を、できるだけ妊娠早期から支援することが、妊産婦の心身の健康を守り、赤ちゃんの命を救うことにつながると受け止めました。
三原大臣との面談の前には、控室で、大西市長、坂本衆議院議員と懇談の機会をいただきました。
坂本衆議院議員は、熊本県議会議員であった当時、同じく県議会議員であった大西市長の先輩であったとのことで、地方自治の現場からの信頼関係をお持ちです。
私は全国市長会副会長在任中に、大西市長が委員長をされている【防災対策特別委員会】で委員を務めていました。
また、坂本衆議院議員が総務副大臣でいらしたとき、総務省統計委員会委員として、諮問・答申等の際にお目にかかったことがあり、幸いにも覚えていてくださいました。
そうしたそれぞれのご縁を振り返りながら、お2人が、この日は内密出産に関する課題を三原大臣と直接対話できることの意義を重く受け止められ、その対話を今後の具体的な課題解決に結び付けたいと力強く話されていました。
まさに、その通りの有意義な対話となったと思います。


